日程及びプロフィール

 趙治勲が、ついに七番勝負の舞台に帰ってきた。大三冠として長期にわたって碁界に君臨してきた趙だが、1999年には本因坊を趙善津に奪われ、翌00年には棋聖を王立誠、名人を依田紀基に明け渡して主役の座から降りた。信じられない転落劇だった。
 しかし、03年には国際戦の三星杯優勝で存在感をアピール。05年に十段を獲得してからは、十段を3連覇して着実に反撃の足がかりを築いた。そして今、十段の砦から棋聖戦へ打って出てきた。
 趙はまだ「四天王」には番碁で負けていない。「四天王の時代」、そして現在の「山下・張・高尾の三強時代」は趙を倒さなければ本物ではない。かつて小林光一の全盛期に、小林の本因坊挑戦を退け続け、やがて反攻に転じて小林を飲み込んだ趙の姿を覚えているファンは多いだろう。今回も棋聖リーグで羽根直樹に勝ってリーグ優勝を決め、挑戦者決定プレーオフで張栩を降してついに山下の前に立った。
 迎え撃つ山下にとってもこれまで以上に重要な七番勝負だ。冬の主役の座を確立している山下だが、昨年も王座こそ防衛したものの、河野臨との天元戦で3年連続の敗退、3連覇を許した。山下は「冬の主役」だが、「第一人者」と呼ばれないのは、番碁での勝率の悪さと国際戦での不振がその原因だろう。現に趙の持つ十段位へも2年連続で挑戦したものの、タイトル獲得に失敗している。山下が「山下時代」を作るには、今回の棋聖防衛は絶対に欠かせない。
 両者ともに譲れない大一番。第三次趙時代の幕開けとなるのか、はたまた山下が世代交代を確たるものにするのか。まさに時代の節目となりうる七番勝負だ。 
 最近の趙は「全盛期以上の冴えがある」との評判だし、趙自身もここ数年、「50代の戦い方」というものを苦しんで模索してきた。その期間が、外野からはあたかも休眠期間のように見えるが趙は休んでいたのではなく、戦い続けていたはずだ。
 山下も一時の豪腕一辺倒のイメージから脱却を図りつつある。 山下の攻めは魅力があり、ファンも多いが、本人はバランス型を目指していると明言している。 二人がめざしてきたものの一端が、この七番勝負で盤上に披露されるとなれば、安易な展開予想はできない。見るものをうならせる、変幻自在の戦いが繰り広げられることをおおいに期待したい。
 
 
日程
勝者
敗者
結果
第1局 1月12日(土)・13日(日)
ブラジル・サンパウロ
「グラン・メリア・モファヘジホテル」
山下敬吾棋聖
趙治勲十段
白中押し勝ち
第2局 1月30日(水)・31日(木)
島根県益田市「島田家」
趙治勲十段
山下敬吾棋聖
白中押し勝ち
第3局 2月7日(木)・8日(金)
愛知県田原市 「伊良湖ガーデンホテル」
山下敬吾棋聖
趙治勲十段
白中押し勝ち
第4局 2月21日(木)・22日(金)
長崎県雲仙市「富貴屋」
山下敬吾棋聖
趙治勲十段
黒中押し勝ち
第5局 2月27日(水)・28日(木)
京都市下京区「東本願寺別邸 渉成園」
 趙治勲十段
山下敬吾棋聖 
 黒3目半勝ち
第6局 3月13日(木)・14日(金)
静岡県熱海市「熱海後楽園ホテル」
 趙治勲十段
山下敬吾棋聖 
 白4目半勝ち
第7局 3月19日(水)・20日(木)
静岡県小山町「経団連ゲストハウス」
 山下敬吾棋聖
趙治勲十段 
白中押し勝ち 
 

山下敬吾棋聖
 昭和53年9月6日生。北海道旭川市出身。菊池康郎氏に師事。
 平成5年入段、15年九段。 
 昭和61年に8歳で小学生名人になり、緑星学園に入会。
 平成10年に第23期新人王戦で優勝し、以降4連覇。平成11年第14期NEC俊英トーナメント優勝。平成12年第30期新鋭トーナメント優勝。同年第25期碁聖戦で、小林光一碁聖に挑戦、3勝2敗で初のビッグタイトルを獲得した。平成13年第27期名人リーグ入り。平成14年には本因坊リーグ、棋聖戦リーグにもそれぞれ入り、そのまま第27期棋聖戦で挑戦者となる。七番勝負で王立誠棋聖を4勝1敗で破り、史上最年少で棋聖位を獲得した。平成16年には羽根に棋聖を奪われたが、年末に第30期天元戦でその羽根から奪取。平成17年に河野に天元を奪われ、翌18・19年に連続挑戦するも敗退。平成18年に張栩から王座を奪取、19年は関西棋院の今村俊也九段の挑戦を退けて連覇を達成した。また、平成18・19年と十段戦で連続挑戦を果たしたが、趙治勲十段に退けられている。棋聖戦は平成18年に羽根からタイトルを奪還、19年には小林覚九段の挑戦を退けて現在2連覇中(通算3期)。天元戦は5年連続、王座戦は4年連続、棋聖戦は過去5年のうち4年間で挑戦手合に登場しており、まさに「冬の主役」と言うべき活躍ぶりだ。
 

趙治勲十段
 昭和31年6月20日生まれ、ソウル市出身。昭和37年に来日、木谷實九段に入門する。
 43年入段、56年九段。
 昭和51年に王座を獲得し、史上最年少20歳5ヶ月での七大タイトル者となる。54年碁聖、55年名人、56年に本因坊も獲得して、史上4人目の名人本因坊。57年十段。58年に棋聖を獲得して史上初の大三冠。第一次趙治勲時代を築く。62年に天元を獲得して、史上唯一人の七大タイトルグランドスラムを達成。
 交通事故を契機に小林光一九段に棋聖・名人を明け渡すが、平成元年に本因坊を獲得、小林の3年連続の挑戦を退け、平成10年に王立誠九段の挑戦からもタイトルを防衛して本因坊10連覇を達成する。棋聖8期、名人9期など数々のタイトル戦で活躍。平成3年には富士通杯優勝、平成15年には三星火災杯優勝など、国際戦でも実績を上げている。獲得タイトル数は71で、史上最高記録を現在も更新中。

 

                (タイトル、段位は当時)
 
日時
棋戦
勝者
結果
敗者
1998/06/15
第7期 竜星優決ト
趙 治勲 棋聖
中押
△山下敬吾 五段
1999/09/23
第38期 十段本戦3
△山下敬吾 六段
3目半
趙 治勲 棋聖
2000/03/02
第25期 碁聖本戦3
△山下敬吾 六段
中押
趙 治勲 棋聖
2000/08/10
第39期 十段復活戦
△山下敬吾 六段
中押
趙 治勲 名人
2002/06/06
第27期 名人リーグ
山下敬吾 七段
中押
△趙 治勲 王座
2002/08/08
第41期 十段本戦2
山下敬吾 七段
7目半
△趙 治勲 王座
2002/08/29
第27期 棋聖リーグ
△山下敬吾 七段
中押
趙 治勲 王座
2003/01/23
第58期 本因坊リーグ
△山下敬吾 七段
中押
二十五世本因坊治勲
2003/04/17
第28期 名人リーグ
山下敬吾 棋聖
中押
二十五世本因坊治勲
2003/11/10
第51期 NHK3回戦
△二十五世本因坊治勲
2目半
山下敬吾 棋聖
2004/03/29
第29期 名人リーグ
△山下敬吾 九段
中押
二十五世本因坊治勲
2005/01/27
第30期 碁聖本戦2
△二十五世本因坊治勲
中押
山下敬吾 天元
2006/03/08
第44期 十段挑戦1
趙 治勲 十段
中押
△山下敬吾 棋聖
2006/03/27
第44期 十段挑戦2
△趙 治勲 十段
中押
山下敬吾 棋聖
2006/04/05
第44期 十段挑戦3
△山下敬吾 棋聖
8目半
趙 治勲 十段
2006/04/13
第44期 十段挑戦4
趙 治勲 十段
2目半
△山下敬吾 棋聖
2006/05/11
第31期 碁聖準決勝
山下敬吾 棋聖
中押
△趙 治勲 十段
2006/10/09
第54期 NHK3回戦
△趙 治勲 十段
6目半
山下敬吾 棋聖
2007/03/08
第45期 十段挑戦1
趙 治勲 十段
中押
△山下敬吾 棋聖
2007/03/29
第45期 十段挑戦2
△趙 治勲 十段
2目半
山下敬吾 棋聖
2007/04/05
第45期 十段挑戦3
△山下敬吾 棋聖
中押
趙 治勲 十段
2007/04/19
第45期 十段挑戦4
山下敬吾 棋聖
中押
△趙 治勲 十段
2007/04/25
第45期 十段挑戦5
△趙 治勲 十段
3目半
山下敬吾 棋聖
2007/08/23
第63期 本因坊最終決
△山下敬吾 棋聖
中押
趙 治勲 十段
通算成績 山下敬吾棋聖 14勝 趙 治勲 挑戦者 10勝